恋し君は運搬後

PCが直った。


話せば長いが。


うっすらと感じてはいた、いやな予感。
入院前に見せてもらった見積書。
保険は利かないらしい。




っ高い!




愛しいPCたんに対して、入院費をケチるとは何事、
とはいえ、そう簡単に了承できる金額ではない。
新品のPCが買えてしまう。
もちろん、データが戻るわけでもない。
たとえ直っても、戻ってくるのは記憶をなくした身体だ。


それだけの金額を払うなら、
思う存分いじりまわして、
ねばってふんばってできることすべてやって、
諦めに諦めの絶望の境地に立ってから払いたいものだ。


選択肢は一つ!
返してくださいBJ先生!




修理を依頼してから、
もう一月が経とうとしていた頃のこと。
ようやく我が手元に、懐かしい黒い身体が戻ってきた。


ずっしりと、しっとりと冷たく、しなやかで、
私はそれをじっと、両腕に抱いた。


おかえり


もう動かないであろう、その冷たい身体。
それでも私は、言葉を綴った。
ほんの僅かな希望と、自分を宥める為の諦め、
そして背徳的な悦びへの期待を指に、
それでも私は、電源ボタンを押した。




ただいま





確かに


そう聞こえた気がした。




それは、愛の力だろうか。
それは、運搬による振動の力だろうか。
それとも、単なる彼女の気まぐれだったのか。


そう、まるで何事もなかったかのように、
彼女はまた、私に微笑みかけた。
いつもと同じ壁紙を、いつもと同じようにまとった姿で。



PCが直った。