第4話
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4話
「あらー、お二人さん、よるのぉデぇーート?」
「姉さん!」
「マーニャ殿!」
星空の静寂を破る影。
上機嫌のマーニャが、ぽむっと二人の肩をたたいた。
「二人ともぉ、地味なわりにはスミに置けないじゃなーい。
こっそり夜のデートだなんて、ロマンチック〜!」
どうもこうも、酒臭い。
すっかり酔っているのは明確だった。
「姉さん! 馬鹿なこといわないで!」
「随分酔っているみたいですな。
まあ、大きな町に着いたときくらい、酒場で一杯やりたい気持ちは理解できるが。」
「そーよねー! さすが、ライアン、ねーっこれからもう一杯付き合わなーい?
ライアンのおごりで、えへっ。」
ライアンの腕を抱いて甘えた声を出すマーニャ。
困ったように頭を掻くライアンから、ミネアがマーニャを引っぺがした。
「姉さん!! ふざけるのもいい加減にして。
だいたいね、この大事な使命を持って旅をしている途中に、
カジノだの酒場だの、姉さんは乱れすぎよ!
だいたい姉さんはいつだって……」
「まぁまぁ、ミネア殿。」
そしていつものお説教を始めるミネアを、ライアンがなだめた。
見た目の堅さからすれば意外だが、ライアンは酒場やカジノの楽しみを愛していた。
それゆえに、多少羽目を外すことに対しても寛容だった。
「ライアンさんは姉さんに甘すぎます!」
「あらぁ、ミネアったら、妬かなくたってイイのにねー。
そーんなにカタブツだとライアンにも嫌われちゃうわよーン。」
マーニャに冷やかしをさせたら天下一品。
特に真面目なミネアをからかうのは彼女の楽しみである。
「姉さん!!」
もちろんいちいち真っ赤になって反論するミネアもミネアである。
もしかするとこれはこれで、姉への愛情ゆえなのか。
「まぁまぁ……
ところで、 マーニャ殿は、ピサロのことをどう思われておるのかな?」
「ピサロ? そーねー、ちょっとナマイキな感じだけどぉ、いい男なんじゃなーい?
あれで彼女持ちじゃなければね〜。」
「そうじゃないでしょ!
そうじゃなくて、……姉さんは気づかないの?
勇者様にとっては、ご両親や親友たちの敵なのよ。」
「んっ?」
「あの気弱な勇者殿のことだ、我々にはわからぬ苦しみを秘めているのかも知れん。
もしもあの者に言い知れぬ憎悪を抱いているとなれば……
我々は勇者殿に何をしてやれるのだろうか。」
「うーんっ、まっ、いいんじゃないのー?
色々考えたってしょーがないじゃない。
もう仲間になっちゃったんだし。
特別なことなんて何もないわよぉ、ドラン人間ヴァージョンみたいな?」
真剣な二人に対し、マーニャはふうわりと笑って答えた。
「姉さん、真面目に……!」
「傍にいてやればいいじゃなーい?
ライアンなんかはさ、勇者ちゃんにいっちばん頼りにされてんじゃん!
なんかあったら真っ先にあんたの後ろに隠れるし、あの子。」
マーニャは、やはり、ふうわりとそう言ってライアンの背中をバシッとたたいた。
「マーニャ殿……」
「ミネアだってさー、そのまま悩んでたらいーじゃん?
あの子がSOS出してきたら、絶対一番に気づいてやれるって!」
そしてミネアの頭を乱暴にくしゃくしゃとなでた。
「みんな同じなんじゃない?
勇者ちゃんがマジにつらいって言ってきたらさ、
四の五のなしにピサロぶっ飛ばすくらいの覚悟はあるよ。
でもそれまでは、
いつもと同じに、勇者ちゃんの傍にいてあげるのがいいんじゃないの。
……ね?」
マーニャはアハッと大きく笑った。
きらめく町の灯りに似た、華やかな笑顔。
そしてそのまま、手を振って、ふらふら千鳥足で馬車の方へ戻っていった。
「マーニャ殿の言うとおりかもわからんな。」
ライアンはマーニャの背中を目で追いながら言った。
「宿に戻りましょうか。」
ミネアは空を見上げながら、そう言った。
すこしだけ、微笑んでいた。
水晶球はただ透き通って夜空を映した。
星のきらめきと町の灯りが、曲がって、映った。
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